小川正弁護士

以下も404になっています。

Q
私は、私用で車を運転中、死亡事故を起こしてしまいました。死亡事故を起こし起訴され失職した例がいくつかあると聞きました。私は、どうしたらいいでしょうか。

A
あなたが人身事故を起こし、検察官が略式罰金では軽すぎるとして公判請求すると、刑事裁判が開かれ、ほとんど例外なく懲役刑または禁固刑の判決が言い渡されます(約99%)。2週間以内に控訴しなければこの判決は確定し(控訴しても、原判決が破棄されなければいずれその判決は確定します。)、勤務先自治体にいわゆる分限特例条例がない場合、あなたは失職します(地公法28条4項・16条2号)。分限特例条例があっても、あなたの場合は、条例に公務中に限るという要件があると失職してしまいます。

最近、次のような事案で、職員が起訴され失職した例があります。
① 一つは免許歴4年弱の市立病院の看護婦(20歳代・女性)が、真夜中の午前2時頃、寝不足と疲労から居眠り運転をして、自車を路外のガードロープ支柱などに衝突させ助手席に同乗していた女友達(22歳)を死亡させた事案です。事故から3ヵ月後に起訴され、平成11年11月12日に、禁固1年2ヵ月、執行猶予3年(求刑禁固1年2ヵ月)の判決があり確定しました。
この事案は、運転者と同乗者が親友であったため、起訴前に示談が成立し(示談金4,361万円)、遺族から嘆願書が提出され、更に市長から3ヵ月の停職処分が発令されていましたが、起訴されたものです。
② もう一つは30年以上無事故無違反の県農地局職員(50歳代・男性)が、土曜日の午後3時頃、買物から自宅に戻る途中、脇見運転をして、自車を路外に逸脱させ、おりから道路脇で草取りをしていた被害者(69歳・女性)に衝突させ死亡させた事案です。
事故から9ヵ月後に起訴され、平成11年9月9日に、禁固1年2ヵ月、執行猶予3年の判決(求刑禁固1年6ヵ月)があり、控訴をしましたが、結局棄却され確定しました。
この事案は、遺族との関係がうまくいかず、起訴後にいたってやっと、示談が成立し(示談金4,200万円そのうちの一部を運転者が負担)、遺族から嘆願書が提出され、更に県知事から3ヵ月の停職処分が発令されたものです。失職したことにより運転者は定年まで勤務したら支給されるであろう約3,300万円の退職一時金を失いました。

右の2事例は、被害が死亡という重大なもので、運転者の不注意が基本的なものであり、しかも、被害者に何らの落ち度がない事案という点で共通性があります。やや古い統計ですが、自動車等による業務上過失致死事件(13,702人)のうち16・24%(2,225人)は略式請求ではなく公判請求されています(法務年鑑平成9年)。
事故の形態がどのようなものであれ、あなたとしては、遺族に誠意を持って謝罪・慰謝し、なるべく検察官が公判請求するか否かを決める前に示談を成立させるべきです。その際は、自動車保険からだけでなくあなた自身も賠償金を支払うことを検討すべきでしょう。保険だけで済まそうとすれば、遺族や検察官からすれば、一方で人を殺しておきながら、他人任せで自分の「懐」さえも痛ませず自分自身の生活だけ守ろうとしていると映るでしょう。
そして、弁護士に依頼して、示談成立などあなたにとって有利な事情(家族関係、無事故無違反歴、被害者の落ち度、懲戒処分を受けたこと、失職の可能性等)を上申書にまとめてもらい、検察官に伝えてもらうべきでしょう。

Q
 禁錮以上の刑が確定すると、職員は失職することになっていますが、組合では組合員が交通事故を起こしても失職しないよう、特例条項制定運動を進めようと思います。全国的な制定状況はどうなっていますか。

A
1、地方公務員法の規定
 地方公務員法28条は「職員は、法16条各号の1に該当するに至ったときは、条例に特別な定めがある場合を除く外、その職を失う」と定めており、一方、同法16条2号は「禁こ以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」と規定しています。この結果、職員が禁錮刑以上の刑に処せられると、「条例に特別な定めがある場合」を除いて失職します。なお、刑に処せられるとは、刑が確定することを意味します。禁錮刑の刑に執行猶予がついても、禁錮以上の刑に処せられたこととなり、失職します。

2、分限特例条項の実態
 分限特例条項は、「職員の分限の手続及び効果に関する条例」の中に定められるのが一般ですが、定められている自治体と定められていない自治体があります。注目すべきは、都道府県段階でも、20前後の自治体で未だ特例条項が定められていないことです。
 都道府県及び政令指定都市における特例条項の制定状況は次号(11月号自治労通信)に詳報します。(調査にあたっては自治労本部労働局に協力してもらいました)。分限特例条項が制定されていない県では、まず市町村でも制定されていないと見て差しつかえありません。
 定められている自治体でも、一定の要件として、①禁錮以上の刑に処せられたのが過失の罪によるものであること、あるいは②公務中の事故であること、もしくは③刑が禁錮刑であること等が付加されていることが少なくありません。しかし、①過失犯であることが要件となっていますと、道路交通法違反など過失犯以外の罪でも起訴されますと、要件に合致しないとして失職してしまいます。②公務中の事故であるという要件がありますと、日曜日などに事故を起こした場合はその要件に当てはまらないとして失職してしまいます。また、③禁錮刑が要件となっていますと懲役刑が言い渡されると要件に合わないとして失職してしまいます。業務上過失致傷罪では、禁固刑より懲役刑が言い渡される率の方が高くなっています。
 そうすると、せっかく分限特例条項があっても、要件次第によっては条例がないのと同様な結果を招くことになります。したがって自治体に分限特例条項がない場合は、新たに分限特例条項を制定する、あってもその要件が厳しい場合は執行猶予の要件だけとする分限特例条項に改正する運動が必要ということになります。
 最も望ましい特例条項は、「任命権者は、法第16条2項に該当するに至った職員のうち、その罪の執行を猶予されたものについては、情状によりその職を失わないものとすることができる」というものです。

3、特例条項の必要性
 分限特例条項は、交通事故を起こした組合員の地位を守るという意味から、その必要性が指摘されています。
 しかし、任命権者からみても、事故を起こした職員でも、その職務に対する意欲及び能力には疑いがない場合も少なくありません。そこで、任命権者としては、これまで同様職務を続けて欲しい場合があります。しかし、特例条項がなければ、その職員は任命権者の意向と関係なく失職してしまいます。それを避けるためにも特例条項が必要となるのです。